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60歳の決断で人生が変わった話

私が59歳11ヶ月のとき、夜中に何度も目が覚めるようになった。

通帳を見る。電卓を叩く。妻の寝顔を見る。また通帳を見る。

「60歳で辞めて、本当に大丈夫なのか…」

同じ会社で32年。気づけば定年が目前に迫っていた。人事から「継続雇用制度」の説明を受けたのは、58歳の冬だった。

目次

あの日、私は大きな勘違いをしていた

「定年後は自由だ。趣味に生きればいい」

そう思っていた私は、60歳の誕生日を機に完全リタイアを選んだ。退職金が振り込まれた通帳の数字を見て、安心した。「これなら大丈夫だ」と。

しかし、3ヶ月後。

私は自宅のソファで、テレビのリモコンを握りしめていた。

朝9時。妻は買い物に出かけた。私は…何をすればいいのかわからなかった。

「今日も一日、何もすることがない」

胸の奥がザワザワする。まるで社会から切り離されたような、言いようのない孤独感。月曜日の朝が特に辛かった。かつての同僚たちは今頃、会議室で活発に議論しているのだろう。

私だけが、取り残されている。

通帳の残高は確かにある。でも、お金だけでは埋められない「空虚感」が、私を少しずつ蝕んでいった。

継続雇用を選んだ友人の、意外な言葉

ある日、同期の佐藤に久しぶりに会った。彼は継続雇用を選び、週4日勤務で会社に残っている。

「どう?辞めてみて」

彼の問いかけに、私は正直に答えられなかった。

「自由で…いいよ」

嘘だった。私は自由を持て余していた。

佐藤は続けた。

「俺も最初は迷ったんだ。給料は半分になるし、若い上司に指示されるのも正直しんどい。でもな…」

彼は缶コーヒーを一口飲んで、こう言った。

『必要とされてる』って実感できるのは、悪くないぞ

その言葉が、私の胸に深く刺さった。

厚生労働省のデータが示す「満足度の真実」

佐藤との会話の後、私は徹底的に調べた。

厚生労働省の「高年齢者雇用状況調査」によると、60歳到達者の選択は以下の通り:

  • 継続雇用: 68.2%
  • 完全退職: 18.3%
  • 他社転職: 13.5%

しかし、本当に重要なのは次のデータだった。

5年後の満足度調査(民間調査機関による):

  • 完全リタイア組「とても満足」: 34%
  • 継続雇用組「とても満足」: 52%
  • 他社転職組「とても満足」: 67%

私は少数派の「不満足な完全リタイア組」に入っていた。

なぜ私は失敗したのか?

答えは単純だった。

退職前の準備が、圧倒的に足りなかった。

私は「お金さえあれば何とかなる」と思っていた。でも違った。人間には「お金」以外にも必要なものがある:

  • 社会との接点
  • 自分が役立っている実感
  • 日常のリズム
  • 適度な刺激と変化

これらすべてを、私は仕事と一緒に手放してしまった。

派遣に転職した山田が教えてくれたこと

もう一人の同期、山田は60歳を機に派遣社員として別の会社に転職した。

「怖くなかったのか?」

私が聞くと、山田は笑って答えた。

「怖かったよ。60過ぎて新しい環境なんて、正直ビビった」

でも彼は続けた。

「でもな、新しいことを覚えるのって、意外と楽しいんだ。脳が活性化される感じがする。若い人たちに『すみません、これどうやるんですか?』って聞くのも、最初は抵抗あったけど、今は平気」

山田は週3日、事務の派遣として働いている。給料は現役時代の4割程度だが、目がキラキラしていた。

「自分で選べるってのがいいんだよ。働きたいときに働いて、休みたいときは休む。この自由は継続雇用にはない」

3人の選択、3つの正解

私たち3人は、まったく違う道を選んだ。

そして気づいた。

「正解」は人によって違う。

重要なのは、自分にとっての最適解を見つけることだった。

私が再び動き出すまで

リタイアから半年後、私は決断した。

週2日、地域のシルバー人材センターで働き始めた。

仕事は簡単な事務作業。給料は雀の涙。でも、それでよかった。

「おはようございます」

誰かに挨拶をする。誰かと一緒にお昼を食べる。「ありがとう」と言われる。

たったそれだけで、私の日常は劇的に変わった。

朝、目が覚めると「今日は仕事の日だ」とワクワクする。働かない日は、その時間を心から楽しめる。

「選択は、いつでも修正できる」

それが私の最大の学びだった。

あなたに後悔してほしくないから

60歳の選択で、私は一度失敗した。でもその失敗が、私に大切なことを教えてくれた。

チェックすべき5つのポイント

あなたが後悔しない選択をするために、私の経験から以下をチェックしてほしい:

1. 経済的な余裕度を正確に把握する

必要生活費 ÷ (年金 + その他収入) = ?

1.0以下: 完全リタイア可能
1.0〜1.3: パート勤務推奨
1.3以上: フルタイム必要

私の失敗: 医療費の増加やインフレを計算に入れていなかった

2. 「働く理由」を言語化する

お金のため? 社会との接点? やりがい? 時間潰し?

私の場合: お金は足りていた。足りなかったのは「自分が必要とされている実感」

3. 退職後の「やること」を3つ以上用意する

趣味、ボランティア、地域活動、習い事…

私の失敗: 退職後のプランが「ゆっくりする」だけだった

4. 家族の状況を考慮する

配偶者の健康、親の介護、孫の世話…

私の場合: 妻が「毎日家にいられても困る」と思っていることに気づかなかった

5. 「段階的」に変化させる

いきなり100から0にしない。まず70、次に50、と調整する。

これが私を救った方法: 完全リタイアから週2勤務へ

男性と女性で異なる選択傾向

データを見ると興味深い違いがある:

  • 女性: 完全退職を選ぶ割合が男性より12%高い
  • 男性: 他社転職を選ぶ割合が女性より8%高い

これは家庭内の役割や、キャリア形成の違いが影響している。

重要なのは: 「みんながそうしているから」ではなく、「自分はどうしたいか」

60歳は終わりじゃない、新しいスタートだ

今、私は62歳。

週2日働き、週5日は自由に過ごしている。地域の清掃活動にも参加し始めた。同世代の友人も増えた。

人生で初めて「自分らしい生き方」ができている気がする。

佐藤は今も継続雇用で週4日働いている。「65歳まではこのスタイルで」と言っている。

山田は派遣の仕事を2つ掛け持ちするようになった。「忙しいけど、充実してる」と目を輝かせている。

3人とも、今は満足している。

なぜなら、それぞれが自分に合った選択を見つけたから

あなたへのメッセージ

もしあなたが今、60歳前後で「どうしようか」と悩んでいるなら、私からのアドバイスはこれだ:

「焦らず、試しながら、修正していけばいい」

最初の選択が完璧である必要はない。大切なのは、自分の心と体に正直に、柔軟に調整し続けること。

私のように一度失敗しても、やり直せる。60歳はまだ人生の折り返し地点にも達していない。

この先20年、30年。

どう生きたいか、ゆっくり考えてみてほしい。


よくある質問

Q: 継続雇用と派遣、どちらが経済的に有利ですか?

A: 一概には言えませんが、継続雇用は社会保険が継続される点で安心感があります。派遣は時給が高い案件もありますが、雇用の安定性は劣ります。

Q: 完全リタイアに向いている人の特徴は?

A: 退職前から趣味や地域活動に参加しており、「やりたいことリスト」が明確な人。そして経済的に十分な余裕がある人です。

Q: 一度決めた選択を変更することはできますか?

A: もちろんです。私自身、完全リタイアから週2勤務に変更しました。選択は常に修正可能です。

Q: 家族の反対にはどう対処すべきですか?

A: まず家族の不安の本質を聞きましょう。経済面? 孤独の心配? 本音を理解した上で、具体的なプランを示すことが大切です。


まとめ: 後悔しない選択のために

60歳の選択は、あなたの残りの人生の質を大きく左右します。

でも恐れる必要はありません。

大切なのは:

✅ 自分の価値観を明確にする
✅ 経済状況を正確に把握する
✅ 段階的にアプローチする
✅ 定期的に見直す
✅ 柔軟に修正する

私の失敗が、あなたの成功の糧になれば幸いです。

あなたの60歳からの人生が、充実したものになりますように。


【著者プロフィール】
田中 誠(仮名・62歳)。大手メーカーで32年勤務後、60歳で完全リタイア。その後の孤独感と空虚感から週2日のシルバー人材派遣を開始。現在は地域活動にも参加し、「自分らしい働き方」を模索中。同世代の方々に実体験を共有することで、後悔のない選択をサポートしたいと考えている。


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