「また週末が終わってしまった…」
リビングの隅に積み上げられた雑誌の山、ダイニングテーブルに置きっぱなしの書類、キッチンのシンクにたまった洗い物。ため息が、私の口からこぼれ落ちました。共働きの毎日。平日は仕事で疲れ果て、週末は「今度こそ!」と意気込むものの、結局は疲労と向き合うだけで精一杯。気づけば、家はいつも散らかり放題です。
夫は潔癖症とまではいかないものの、生粋の綺麗好き。結婚当初は「二人で協力すれば大丈夫」と前向きでしたが、日を追うごとに夫の眉間にシワが増えていくのがわかります。彼は何も言いません。ただ、その無言のプレッシャーが、私の心を締め付けます。
「ごめんね…でも、どうしていいか本当に分からないの…」
心の中で夫に謝りながら、自己嫌悪の波に飲まれていきました。なぜ私だけ、こんなに掃除ができないんだろう?なぜ、他の人は当たり前にできることが、私にはこんなにも難しいんだろう?
「汚部屋育ち」が私を縛る呪縛:共働きを言い訳にしたくない本当の理由
私の実家は、いわゆる「汚部屋」でした。床には物が散乱し、埃が舞い、どこから手をつけていいか分からない混沌とした空間。母は忙しさを理由に、ほとんど掃除をしませんでした。私も、幼い頃から「掃除のやり方」を教わる機会がなく、自然と「汚れているのが普通」という感覚が染み付いてしまったのです。
結婚して、初めて「家を綺麗に保つ」ことの難しさに直面しました。当初は「共働きだから時間がない」と言い訳をしていました。でも、心の奥底では知っていたのです。これは時間だけの問題じゃない。根本的に「掃除の仕方がわからない」「どこから手をつけていいか分からない」という、幼い頃から続く根深い問題なのだと。
何度か掃除本を読み漁り、収納グッズを買い込んでみました。しかし、どれも一時的な解決にしかなりません。
「ダメだ、私には無理だ…」
新しい収納ボックスはすぐに物で溢れかえり、ピカピカにしたはずのキッチンは、翌日にはまた油汚れと水垢に覆われる。そのたびに、私は深い絶望感に苛まされました。「なぜ私だけが、こんなにも家事の才能がないんだろう?」その問いが、私をますます無力感の淵へと突き落としていきました。夫の無言の視線が、まるで私を責めているかのように感じられ、家での時間が息苦しくなっていったのです。
掃除ができないのは「水漏れ」している蛇口に雑巾を当てているのと同じ
表面的な掃除テクニックや収納術は、水漏れしている蛇口にいくら雑巾を当てても一時しのぎにしかならないのと同じです。本当に必要なのは、根元のパイプの破損を修理すること。
私の「掃除ができない」という問題の根源は、幼少期の経験からくる「心のブロック」でした。掃除の習慣が身についていないだけでなく、「どうせやっても無駄」「完璧にできないなら意味がない」という無意識の諦めが、私の行動を阻害していたのです。この心のパイプの破損を直さない限り、いくらハウツーを詰め込んでも、水浸しの床(散らかった家)は避けられないのです。
「汚部屋育ち」の呪縛を解き放つ3つのステップ
では、この根深い問題にどう立ち向かえば良いのでしょうか?私が実践し、効果を実感した3つのステップをご紹介します。
1. 「完璧」を捨て、「最小の一歩」から始める:1日5分の奇跡
まず、私が手放したのは「完璧主義」でした。家全体を一度に綺麗にしようとするから、途方もなく感じて行動に移せない。だから、「1日5分だけ」と決めました。
- キッチンのシンクだけ磨く
- リビングのテーブルの上だけ片付ける
- 玄関に散らばった靴を揃える
たったこれだけ。最初は「こんなことで何が変わるの?」と半信半疑でしたが、毎日続けていると、少しずつ変化が訪れました。小さな成功体験が、私の自己肯定感を少しずつ回復させてくれたのです。「私にもできるんだ」という感覚が、何よりも大きな原動力になりました。
2. 「掃除の型」を学び、習慣化の仕組みを作る:プロの知恵とルーティンの力
次に、私は「掃除の型」を学ぶことにしました。YouTubeやブログで、整理収納アドバイザーの具体的なアドバイスを参考にしました。
- 物の定位置を決める:使ったら元の場所に戻す、を徹底。
- 「ついで掃除」を習慣化:歯磨き中に洗面台を拭く、料理のついでにコンロ周りを拭くなど。
- 掃除道具を厳選し、使いやすい場所に置く:すぐに手に取れる場所に置くことで、掃除へのハードルが下がります。
私は、朝起きてすぐと、寝る前の「たった10分」を掃除の時間に組み込みました。最初は億劫でしたが、ルーティン化することで、次第に「やらないと気持ち悪い」という感覚に変わっていきました。この習慣化の力は絶大です。
3. 夫との「対話」で、心地よい暮らしの基準を再構築する
最も重要だったのは、夫との対話でした。私は正直に、自分の過去と掃除への苦手意識を打ち明けました。
「私、実家が汚くて、掃除の仕方をちゃんと教わってこなかったの。共働きで疲れてるっていうのもあるけど、本当は自信がないの…」
夫は驚いた顔をしていましたが、私の話に真剣に耳を傾けてくれました。そして、彼は「もっと早く言ってくれればよかったのに」と優しく言ってくれました。その瞬間、私の肩の荷がスーッと下りた気がしました。
私たちは、「どこまで綺麗ならお互い心地よいか」という基準を話し合い、家事の分担を見直しました。夫が特に気になる水回りは彼が担当し、私はリビングや寝室の整理整頓、洗濯を主に担当することに。完璧を目指すのではなく、「お互いが納得できる範囲で、心地よい空間を作る」という共通の目標ができたのです。
掃除は、家を磨くことじゃない。心を整える儀式だ。
「汚部屋育ち」という過去は、変えられません。しかし、その過去が今の自分を縛る「呪縛」となるか、それとも「成長の糧」となるかは、私たち自身の解釈と行動次第です。
掃除は、単に家を綺麗にする行為ではありません。それは、自分の心と向き合い、過去の自分を癒し、未来の自分を創造する「儀式」なのだと、私は気づきました。
よくある質問
Q1: 夫が綺麗好きすぎて、プレッシャーを感じます。どうすれば良いですか?
A1: まずは正直に、あなたの気持ちと過去の経験を夫に打ち明けることが大切です。その上で、お互いの「心地よい」と感じる基準を話し合い、具体的な家事分担や協力体制を築きましょう。完璧を目指すのではなく、お互いの歩み寄りが重要です。
Q2: 毎日忙しくて、掃除をする時間が本当にありません。
A2: 「完璧な掃除」ではなく、「最小の一歩」から始めましょう。1日5分でも10分でも、できる範囲で特定の場所だけを片付ける、磨くことからスタートしてください。小さな成功体験が、次の行動につながります。また、「ついで掃除」や「ながら掃除」を取り入れるのも効果的です。
Q3: どんな掃除道具やアプリを使えば効率的ですか?
A3: 掃除道具は、まず「使いやすい」と感じるものに厳選し、すぐに手に取れる場所に置くことが大切です。アプリとしては、家事のタスク管理ができる「OurHome」や、整理収納のヒントが得られるSNSなどが役立ちます。ただし、道具やアプリはあくまで補助。最も大切なのは、あなたの「やる気」と「習慣化」です。
過去の「呪縛」を解放し、あなたらしい「心地よい家」へ
かつての私は、リビングの散らかりを見るたびに自己嫌悪に陥り、夫の視線に怯える日々でした。しかし、今では違います。完璧ではないけれど、私たち家族にとって「心地よい」と感じられる家がそこにはあります。
「汚部屋育ち」の過去は、もう私を縛る呪縛ではありません。それは、私が「掃除の苦手」を克服し、自分らしい幸せな家庭を築くための、大切な一歩だったのです。あなたもきっと、この呪縛から解放され、自分らしい「心地よい家」を手に入れることができるはずです。
