信号待ちの列で、隣に並んだ電動アシスト自転車が、青信号と同時に無音で加速していく。
ビンディングペダルをはめ直し、立ち漕ぎで必死に追いつこうとする自分の横を、スーツ姿のビジネスパーソンが涼しい顔で引き離していく。残るのは、心拍数の急上昇と、太ももへの重い疲労感である。
「ロードバイクの方が圧倒的に速いはずではないか」
「通勤の疲労を減らすなら、どちらを選ぶべきなのか」
もしスペック表を睨んで迷っているなら、いったん立ち止まったほうがいい。
都市部における自転車通勤の「速さと楽さ」は、車体重量やカタログ上の性能だけで決まるものではない。それは、信号や交通量という環境が引き起こす、物理的なストップアンドゴーの連続によって決まるからだ。
本記事では、公的ルールを用いて「なぜ市街地では電動アシスト自転車が有利になるのか」という事実を整理する。その上で、自分の通勤環境に最適な一台を選ぶための4つの判断基準を提示する。
最高速度では解決できない「平均速度」という事実
ロードバイクの魅力は、自力で時速30km以上を出せる巡航速度の高さにある。しかし、実際の通勤路は障害物のないサーキットではない。
ストップアンドゴーが平均速度を引き下げる
平均速度の算出式は「走行距離 ÷ (走行時間 + 信号待ち等の停止時間)」である。最高速度がどれほど高くても、市街地では数百メートルおきに信号や一時停止が連続する。ロードバイクは前傾姿勢で自らの筋力を使うため、停止状態からの「ゼロ発進」のたびに大きな体力を削られることになる。
道路交通法に基づく「1:2のアシスト」の威力
対して電動アシスト自転車は、最も負荷のかかる「発進時の踏み出し」に最大のアシストが働く。日本の道路交通法の規定により、時速10km未満の低速域では、人間の踏力に対して最大「1:2」の比率でモーターが介入する。
信号が多い経路ほど、この「発進アシスト」の恩恵は大きくなり、結果的に体力消費を抑えつつ、高い平均速度を維持しやすくなる。
アシストが切れた領域の「車体重量」
限界も存在する。同法規により、モーター補助は時速24kmで完全にゼロになる。信号が少なく、長距離を時速25km以上で巡航できる平坦な道であれば、車重が軽く空気抵抗の少ないロードバイクの方が圧倒的に速く、疲労も少ない。電動自転車の重い車体(一般に20kg以上)は、時速24km以上の領域ではただの重りと化すからだ。
最適な通勤手段を選ぶための4つの判断基準
「どちらが優れているか」ではなく「どちらが自分の経路に適合するか」が答えだ。明日から検討できる、4つの現実的な確認事項を整理する。
1. 「発進」と「巡航」のどちらの負荷を下げるか
自分の通勤路を思い返してほしい。ストップアンドゴーが連続し、発進の負担を下げたいなら電動アシスト自転車が適している。逆に、止まることなく走り続けられる川沿いのサイクリングロードなどがメインなら、巡航の負荷を下げるロードバイクに軍配が上がる。
2. 経路の「信号数」を数える
片道の経路にある信号の数と坂道の勾配を確認する。片道10kmであっても、信号が30箇所ある市街地なら、電動アシストの恩恵は絶大だ。距離だけでなく「停止を余儀なくされる回数」を基準にする。
3. 帰路の「疲労の蓄積」を測る
通勤は往復である。朝は元気でも、仕事で疲労しきった夜間に同じ距離を自力で走る余力が残っているか。体力に不安がある、あるいは仕事のパフォーマンスを1ミリも落としたくないのなら、運動負荷を捨てられる電動アシストへの移行を検討すべきだ。
4. 「保管」と「整備」の手間を比べる
運用面の違いも直視する。ロードバイクは軽量ゆえに室内保管が容易だが、日常的なチェーン注油や空気圧管理が必須となる。電動アシスト自転車はバッテリーの充電管理が必要になる上、車体が重いため、屋根付きの頑丈な駐輪環境が求められる。自分の住環境に合わせて判断してほしい。
